「先生、もう絶望的です。うちの子のテストを見てください」
夏休みに入ってまもなく、小学校四年生のお母さんが塾に駆け込んでき
て、そういいます。
学期の終わり、1学期なら7月初め、2学期なら12月初め頃になると、多くの学校で、標準テスト(カラーテスト)が行われます。通知表の成績をつける資料とするためです。
返却されたテストのうち、一番点数の低い国語の答案の束を手に、「うち
の子には難しすぎます」「ぜんぜん私のいうことを聞いてくれないし、考える力がまったくないんです」繰り返しお母さんは訴えます。
40点、55点、62点・・・差し出された答案の得点の欄に並んだ数字は、塾で見る日頃のS君の様子からは、想像しにくい数字です。
20年前の私なら、お母さんと一緒に不安に感じたり、悩んだりしてい
たかもしれません。でも、いまは違います。
「そんなに心配はいりませんよ。ほら、ここをよく見てください」
バツのついた解答欄に、初めに書いた答えを消した跡が見えます。その
上から、正解が赤鉛筆で書き込まれています。S君が自分で書いたものです。堂々とした立派な文字です。それに比べると、マルのついている欄にかかれた文字は、貧弱で乱暴です。テストを受けていたときのS君の心の様子が、書かれた文字に表われています。
「S君のまわりで、何か変わったことがありませんでしたか」
私はお母さんにそう切り出してから、ちょっと一息つきました。
こうした訴えには、子供のとる姿勢から二つのタイプがあります。ひとつは、「反抗型」で、S君のようなタイプです。もうひとつは「順応型」で、お母さんの言うことをよく聞いて、一生懸命努力しますが、結果が出せないタイプです。
「反抗型」のお母さんは、自分の子供を現実より低く評価して、このまま
では行く学校がないと嘆いて見せます。
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「反抗型」のお母さんは、自分の子供を現実より低く評価して、このままでは行く学校がないと嘆いて見せます。
「順応型」のお母さんは、うちの子にはもっと力があるはずだ、どうして
成績が上がらないんだろうと不思議がります。
しかし、どちらのケースも親子間の一時的なコミニュケーション不全とい
えます。そしてその原因は「子供の精神的な成長」にあると思います。それがはっきりと見える「反抗型」に比べて、「順応型」は親のいうことをよく聞くので見分けにくいことが多いですが、親の期待に過度に(意識して自分から)適応している点で、成長が見られます。
解法のコツは、その成長の事実を親が受け入れるかどうかの一点にありま
す。そして、私の心がさほど揺れずに済んでいるのは、過去の経験のおかげです。
40→慶応(経済)、41→大妻(文)、43→横浜市立(理)、44→東京女子(文理)、45→筑波(1類)、46→一橋(法)・・・。
さて何のことか、お分かりですか。大学の名前と数字の組み合わせにどん
な意味があるのでしょう。数字は偏差値? その通り。40とか41とかの数字は偏差値です。でも大学受験の合格基準の偏差値ではありません。
実は、この数字は中学受験の合格判定テストの偏差値です。大学に合格し
た時点で、その生徒の小学校段階での成績を、6年(7年)前にさかのぼって
調査したものです。大学進学実績に評判の高い、ある中高一貫私立校の学校
説明会資料に載っていました。
データを公表した校長先生は、中学入試に偏差値を用いるのはほとんど犯
罪行為だと言っています。テストの結果から自分の学力を早々と見切ってしまい、その後の努力を怠る生徒があまりにも多いことに、先生は警鐘を鳴らしていらっしゃるのです。
8年前、10年前に駆け込んできたそのお母さんが、今度は「大学はお金がかかる、たいへんだ」と訴えて塾に電話をくれます。でも、その声に張りがあるのが感じられて、受話器を置くのが惜しいように思うことがあります。
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