第4回 ≪偏差値(中)≫

■『首都圏/中学受験ニュース』2001年7月10日配信号収録=第4回=■
 
 公開模試の結果が気になり始める頃です。

 採点済みの答案と、偏差値の打ち出された個人票を前に親子で作戦会議。 そんなとき、お父さん、お母さんに覚えておいて欲しい作戦の立て方を、今回はお話します。

 まずは、やってはいけないことから…

(1)間違えた問題を全問やり直し、解説でそれらの解き方を覚えるように子どもに命じる。
(2)自力で解けない問題については、親がとことん説明して理解させる。
(3)家庭教師に、分かるまで丁寧に教えてくれるように頼む。

 テストの結果を冷静に受け止めて、できなかった問題の理解を通して、 実力のアップをめざそうという、ごく当たり前の作戦です。

 ところが、この方法ではほとんどうまくいきません。なぜでしょうか。

 偏差値が中学入試の合否判定になかなか採り入れられなかったことは、前回お話しました。大きな母集団の中で自分の位置を知るには、偏差値は便利な道具です。しかし、中学入試では、本番の試験は各校ごとに小規模に行われるうえ、出題される問題には大きなレベルの違いがあります。

 いっぽう、公開模試は、いっぺんに数万人の受験生が集まって、同じ問題 で実力を試されます。したがって、テストはやさしい問題から難しい問題まで、さまざまな受験生の二−ズに合わせて作られています。とはいっても、満点が続出するようではテストの権威が下がり、偏差値の評価に適した分布も得にくい結果になるので、ほとんどの子どもには解けないような「難問」を織り込んであるのが普通です。

 (1)〜(3)では、『すべての』問題をマスターすることが作戦目標になっています。子どもは、親の真剣な態度に押されて、多くの場合理解したように装います。もちろん、真実は次のテストで明らかになります。

 それでは、正しい作戦の立て方を紹介します。

(1)公開模試では、テストを受ける前に志望校を決めておきます。その志望校の偏差値から5を引いた値を目標の偏差値とします。
(2)その値に相当する得点を、あらかじめ換算表で調べて(ないときは、テストの会社に問い合わせて調べ)、目標点としておきます。
(3)テスト問題の各小問ごとの正答率の表(なければ請求)から、子どもの誤答箇所のうち正答率の高いものから順に、目標点に届く点数までの問題だけ、本人が得点しやすいと感じたものから直す。
(4)もしそこができていたらどこの学校に受かったか調べさせる。

 そして、これが一番大事なことなのですが、できないところを理解させよ うとするより、「ここができていたら目標に達していた、惜しいことをしたなあ」と子どもが自然に思うような環境を作るのが、この作戦のポイントです。

 さて、もうひとつ大事な点は目標の偏差値を基準値から5引くというところ にあります。なぜ引くのか、不思議ですよね。でも、これでOKなんです。 

 もしあなたのお子さんの偏差値が現在56だったとしたら、志望校は56ぐら いの学校から選ぶでしょうか。そうは考えないでしょう。実際には、60以上の学校をほとんどの人が目標に置くのではないでしょうか。

 ある年に、首都圏の大規模テストの詳細な結果データを見る機会がありま した。基準56の学校には64〜43の生徒が受験し、64〜47の生徒が合格していました。しかし、入学したのは57〜47の生徒でした。この学校の合格基準である56より高い偏差値を持った生徒は、この学校に予想通り合格しましたが、そのうちのほとんどが入学しませんでした。

 お察しのとおり、もっと基準の高い学校に合格して進学したのです。

 基準の値におびえて、理解を装う心の貧しさを親が子に伝えるのでは、大人のほうこそ偏差値の虜になってしまったといえます。