去年の今ごろのことです。私の塾に変わった入会者がありました。
やって来たのは、その春現役で希望の大学に合格したばかりのA君です。
もう一昔前のことになりますが、中学合格までの約2年間私の塾で勉強して
いた生徒ですから、正確にいえば再入会の塾生です。
それまでにも、第一志望の大学に合格できず「もう一度チャレンジしたい
のですが」と相談に来るケースはありました。なかには、合格した大学に通いながら、再受験の準備をすすめる「仮面浪人」などと呼ばれる受験生もいました。
でも、A君の相談は、そのどちらでもありませんでした。「物理学の勉強法を教えてください」私の顔を見るなり、思いつめたような表情で切り出しました。
A君はある大学の工学部へ入学しました。こまごまとした手続きを済ませ、持ち帰った分厚い書類にあらためて目を通してみると、1年生の時間割の中に「応用物理学」や「流体力学」 など、専門的な内容の授業が並んでいることに気がつきました。彼は「物理」を受験科目に選んでいませんでした。高校で履修はしましたが、学力はほとんどゼロの状態だったそうです。たしかに中学入試の算数や理科でも、おおいに苦戦していました。
このままでは大学1年で落ちこぼれてしまうと心配して、春休みに大学受
験予備校の講習に登録しました。自分の入学した大学を目指す受験生と机を並べて勉強しようと考えたのです。しかし、その1日目の講義にもついていけず、先の受講をあきらめて、その足で相談にやって来たというわけです。
事情を聞いた私は、大学受験の「物理」ではなく「物理学」の指導のできる大学院生を、教え子の中から探してA君に紹介しました。
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『分数のできない大学生』という本が話題になりました。「生物」を勉強していない医学部生や、「数学」の基本的なルールを知らない経済学部生が、トップランクの大学にも数多く入学してきて、授業がすすめにくくなっているという、おもに大学の先生方の「声」を集めた本です。
どうしてそんなことが起こるのか。いくつかの理由が挙げられます。
大学の入試科目が少なくなった。高校までに教える内容が質量ともにダウンした。子供たちが勉強しなくなった。等です。本の中の「声」は、学校で教える内容を減らしたことが一番の原因だと訴えています。
しかし、トップランクの大学の入学者といえば、教科書レベルよりずっと
高度な内容の勉強に適応できた生徒です。入試問題に工夫を凝らしたり、専門との繋がりに留意して補講をしたり、潜在力のある生徒たちに学問の魅力を伝えるのも、大学の先生方の役目ではないでしょうか。
いずれにしろ、中高一貫校の出身であっても、A君のように大学入学後に
≪学力低下≫問題に遭遇するのは珍しいことではないようです。
この問題に限りませんが、私立中学へ入学することで、すべての「教育問
題」から解放されると考えるのは間違いです。
今月から3回ほど、教え子たちの中学入試の「その後」を「教育問題」と
いう鏡に映して、皆さんにご覧いただきたいと思います。
ところでA君の「その後」ですが、不思議なことに「物理学」にハマっているそうです。「あのAがねーぇ」講師たちは、口を揃えてそう言っています。
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